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「ぐるりのこと。」

「あたし、子ども欲しいんです。いや、ただそれが最終目的じゃなくて。なんか、
明日が楽しみでいるようになりたいとか、掃除もちょっと頑張ってみようとか、
明日も頑張って生きられるかなとか、そういう風に思いたくて。それで、色んな
人間関係とか、結構あたしあきらめてたんですけど、二人と会って、あたしは
まだ諦めたくなかったんだなって思って。人とゴハン食べたりとか笑ったりとか、
手つないだりとか、そういうのしたいなぁとか。なんかキレイだなとか、いいなと
か、そういうのどんどん思えてきて。それで二人といて楽しいし、スゴク。その先
に子どもがあるんだったら、それはそれで、全然大丈夫かなって。
何かうまく言えないけど。」
↑これは『ハッシュ!』で一番好きなシーン、朝子の台詞です。


その『ハッシュ!』の橋口監督の新作、『ぐるりのこと。』を昨日観てきました。

Dl_img3たまらなく良かったです。
観ている最中も、途中からボロ泣きしてしまったん
ですけど、むしろ映画を見終わって家に帰る途中、
電車の窓から見えるマンションのあかりとか、今朝、
台所でコーヒーを淹れてるふっとした時とか、そんな
ときにあの映画のひとつひとつのシーンが思い出さ
れて、じわじわっと心があたたかく満ち足りた気持ち
になってくるのでした。
(そしてまた涙が…)

どこにでもいそうな、30代のひと組の夫婦とその周辺の10年間。その描き方が
とても繊細で丁寧で優しくってね。

木村多江扮する翔子がうつになり、感情を爆発させるある夜のシーン。
「ちゃんとしたいのにちゃんとできない」と地団駄を踏む、どうしようもない自分へ
のいらだちとか、その「どうしたらいいのかわからない」という心細い気持ちが、
たまらなく伝わってきて、自分のことのように泣けてきました。
そんな妻のうつに過剰に反応することなく、逃げるでもなく、ただ静かに受け止め、
見守っていく夫のたたずまいが、また良くって。
もともとリリーファンの私ですが、彼の演技は想像以上に素晴らしかったです。

翔子が、再生していく様子は、きらきらと瑞々しくて本当に美しかったな…。
彼女は絵を描きながら再生していくのですが、絵にひと筆ごとに色が着いていき、
その絵が少しずつ出来上がっていく過程と、彼女の再生とがリンクしてて。
今思い出しても、翔子が絵を描くシーンは、胸がぐわーっと昂ぶってくるのです。

夫婦以外の、家族や職場の同僚の関係も良かったですね。
母親が娘を見つめる視線とか、同僚の心配してるけど無理に尋ねることなく遠くで
見守っている態度とか、どれも台詞で説明することなく、表現されていました。

夫婦にしても、親子にしても、友達にしても、この映画にでてくる出来事って実は、
ごくごく当たり前のことなんだと思うんだけど、なのに、こんなに心がゆさぶられて
しまうのは、自分も社会全般もそんな当たり前のことさえできなくなってきてるんじ
ゃないかなって、思ってしまったのでした。

「大事にできるものがあるときは、大事にしとけ」
おっしゃるとおりですね。肝に銘じます。






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「見て聴いて読んで」カテゴリの記事

コメント

同感。
ついでに 肝臓にも命じておかなきゃ(苦笑)

投稿: ろっし | 2008年6月21日 (土) 19時34分

■ろっしさん
ほんとだよー。
ろっしちゃんが肝臓大事にすること=家族を大事にすることだからね!
たまにはまっすぐ家に帰りなさい。そして奥さんと手をつなぐのだ。

投稿: ok | 2008年6月21日 (土) 20時55分

そのレビューを読むだけでちょっと既にホロリ。
見たいな〜。なんだか人を大事にする事を再認識するような映画というか、そう実感させられるのが目に見えてるけど、そんな事考えてしまう事がひねくれてるんでしょうか(笑)再認識しにいきたいと思います!

投稿: 某屋 | 2008年6月21日 (土) 23時25分

■某屋さん
つたない私のレビューでホロリしたのだったら、映画を観たらホロリ数倍間違いなしです。
でも重苦しかったり堅苦しかったりする映画ではないから、むしろ笑えるシーンが多いし、
映画館を出る時にはなんとも清々しい気分になれるので安心してねconfident

ここ数年の日本に、イヤな事件が多いのは大事にできるものの存在がわからなくなって
る人が増えてしまったのかもなって、映画を観てて思ってしまいました。
自分とか家族とか…、そばにちゃんといるのに、見えなくなってるのかも。

投稿: ok | 2008年6月22日 (日) 00時40分

ほぉんとにヨカッタですよね!
泣けるシーンもクスリと笑えるシーンも
どこも暖かさに溢れていて、
映画を観終わったあとは
自分を支えてくれているみんなに
感謝する気持ちでいっぱいになって
好きなヒトに会いたくなりましたconfidentshine

投稿: リエ* | 2008年6月22日 (日) 02時01分

木村多江が仕事中の本屋で
感情が吹きこぼれそうになって
ぎりぎり我慢しながら店内を小走りして
誰もいない片隅にしゃがみこんで
でっかい地図帳に顔をうずめて泣くシーン。

ヘタするとベタになりそうなんだけど
ほんとにリアルで素晴らしかった。

リリー、メタボってたけど
すごく良かったからチャラにした。

投稿: きこ | 2008年6月22日 (日) 17時53分

■リエ*さん
夫婦のあいだのシモネタもいやらしくなくてめちゃ温かかったですね。
リリーの台詞が関西弁だったのも良かったのかもしれへんなぁ~。(エセ関西弁)

つい最近、内田樹センセのblogで「妥協と共生」http://blog.tatsuru.com/2008/05/21_0958.php
という文を読んだそのあとすぐにこの映画を観たのだけど、
あぁ本当に、結婚って「妥協」と思うか「共生」と思うかで明暗別れるよなぁと
思いました。やっぱり、ともに生きていく人生がいいよねーconfident

投稿: ok | 2008年6月22日 (日) 20時01分

■きこさん
おつかれ~。
あの本屋のシーン、本当に演技者の技量が問われるところだよね。
ほんと木村多江は良かったなぁ。居眠りの顔が菩薩のように美しかったし。

まぁ、すべての役者がうまかったよねー。
個人的には被告役の片岡礼子と寺島進の奥さん役の安藤玉恵がスゴイ!って思った。

リリーの腹はびっくりした。でも蟹腹だったらそれはそれでリアルじゃないかも(笑)

投稿: ok | 2008年6月22日 (日) 20時12分

うわぁ!内田樹センセのblogのとこ行ってみました。
面白いです。物事のとらえ方によってこんなに違ってくるんですね。深い。。

リリーさん観たいな!予告でスーツじゃないのがちょっと違和感かな。。と思ったけど。

投稿: | 2008年6月23日 (月) 13時32分

↑すみません!わたしです。。

投稿: なつねの | 2008年6月23日 (月) 13時34分

良かったねぇ

リリーさんが自分に見えた
特に前半ね(苦笑)

投稿: ワシ | 2008年6月23日 (月) 14時55分

■なつねのさん
リリー、私もいっつも黒いタキシードみたいなジャケットを着崩した姿しかみたことが
なかったので、Tシャツ1枚姿は新鮮でしたわ。
腹がちょっと出てるんだよ、痩せてるのに。お酒飲んでる腹(笑)

内田樹先生は、いつも自分が漠然とわかったような気がしているもの、…でも、
もしかしたらわかってないのかもしれないもの、についてしっかりと「腑に落として
くれる」んだよねぇ。


■ワシさん
あっ、ワシさんももう観た?まぁ観るとは思っていたけれど。
先週は「アフタースクール」、「JUNO」も観てて、その2作も面白かったんだけど
(特にJUNOは良かったのよー!!)
「ぐるり」を観たあとではぐるりのことしか書けないっす。


>リリーさんが自分に見えた

ははははは。ほんとだねーーー。(これ以上言うまい~)


投稿: ok | 2008年6月23日 (月) 22時53分

正直、結婚とかってそんなにいいもんなのか?と結婚自体に憧れた事はなかったのですが、あの映画観たら、こういう絆のつくりかたが出来る相手と結婚と言う括りで一層強く経験を蓄積出来るなら、いいもんだな~としみじみしました。
結婚も、家族も、親子も構成する人次第でどうにでもなるという事なんですね。

個人的には、寺島さん扮するお兄さん夫婦の「THE 生命力」の塊のような夫婦像も興味深かったです。

投稿: 歌子 | 2008年6月24日 (火) 00時15分

■歌子さん
そうねー。あんな夫婦を見てたら素直に結婚もいいよねって思えるよね。
ただ正直言うと、私はパートナーにはもっと気持ちをいろいろ言葉にしてほしい。
じゃないと翔子みたいに不安になってしまいそう。
饒舌である必要はないけれど、「悲しかった」くらいは言ってほしいよ。

だからお兄ちゃん(寺島進)くらいに単純なほうが結婚はラクちんな気がする。
怒る時怒って、笑うときわらってくれたほうがいいなぁ。

投稿: ok | 2008年6月24日 (火) 14時06分

今週の「新潮」で紹介してあって、
あー、見ようかなあと思ってたんだけど、、

>「大事にできるものがあるときは、大事にしとけ」

だいたい失ってからとか壊れてから気づくような気が。(笑)

投稿: 69 | 2008年6月28日 (土) 01時09分

■69さん
忙しくってなかなか映画も観るヒマないかもしれないけれど、
DVDで観るより映画館でゆっくりと映画と向き合いながら観るほうがいい映画だと
思うのでできれば劇場に足を運んでくださいませ。

>だいたい失ってからとか壊れてから気づくような気が。(笑)

そういうもんだよねー。69さんだけじゃなく、誰もがそうだと思うよ。
だから、こういう映画観て、「こうでありたい」って思うのかもしれませんわ。

投稿: ok | 2008年6月29日 (日) 21時03分

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